伝統工芸から製造業まで、沖縄県のものづくりを幅広く支えているのが「沖縄県工業技術センター」です。とくに、いくつかの伝統工芸品の分野では沖縄県が目指す「新・沖縄21世紀ビジョン」達成のため、ものづくりを担う職人さんたちや企業が抱える課題を、彼らと並走しながら解決しています。今回はそんな「沖縄県工業技術センター」の取り組みを、前編・後編に分けてお届けします。

「新・沖縄21世紀ビジョン」について詳しくはこちら

半世紀以上、沖縄のものづくりを支えてきた実績

30,000㎡の広大な敷地の中にあり、正面入り口の琉球石灰岩や赤瓦屋根が印象的な「沖縄県工業技術センター」(以下、工業技術センター)。那覇空港から1時間ほどの場所にあり、施設内では製造業を支えるための研究が行われています。

平良さん:「工業技術センターは、県の商工労働部の公設試験研究機関です。1959年の「琉球工業研究指導所」設立後、工業試験場を経て、1998年の移設・拡張に伴い現在の名称になりました。企画管理班、食品・醸造班、機械・金属班、環境・資源班の4班体制で構成されています」

さまざまな分野で県内産業と関わりがあると話してくれた平良さん

そう説明してくれたのは、工業技術センターの所長を務める平良直秀さん。JKAの補助事業は、主に研究や技術支援のための機器の導入に活用されているそうです。

平良さん:「JKAさんからは1973年にまで遡りご支援をいただいております。これまでに電子顕微鏡や、大型の加工機械などの導入をサポートいただいてきました。補助をいただくことで、本当にたくさんのものづくりを支えていただいているんです」

中には、国内の公設研究機関の中では先駆けて導入された機械も

具体的には企業や職人さんたちの代わりに試作品を製造したり、製造に必要なデータを算出するなど、さまざまな課題を解決する一助としているとのことでした。

首里城からルアーまで、幅広く活用

CAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれる水や空気の流れ、構造物の強度などを解析するシステムも、県内のものづくりに大きく貢献しています。たとえば、沖縄県に多い課題として挙げられるのが、ソーラーパネルをはじめとした設置物への台風被害です。これまでは試作品を製造し、強風に耐えられるかのテストを行う必要があったため、コストや作業負担が膨らんでしまうこともあったのだとか。CAEを導入して以降は、事前に構造物の強度を予測できるようになったため、試作品をつくる必要が少なくなったと担当の泉川さんは話してくれました。

難しいシステムや仕組みについて、分かりやすくご解説いただいた

泉川さん:「現在取り組んでいるのは、釣りで使用されるルアーの挙動解析です。ルアーが水中でどういう動きをするかについては、ルアーが水から受ける力と、それを受けてルアーのパーツがどう挙動するかを両方解析する必要があります。とても難しい解析なのですが、今回導入した新しいシステムによって、ルアー形状の最適化が図れるようになりました」

水中におけるルアーの挙動解析

解析でルアーの挙動が予測できるようになれば、県内でルアーを設計する業者への強力な技術支援になると語る泉川さん。また、製造業の分野だけでなく、沖縄のシンボルともいえる首里城再建にもCAEは活用されているそうです。

泉川さん:「首里城の正殿内には額縁があって、それを支える金具にもCAEが活用されています。工事業者さんたちからの相談で、地震が発生した際などに耐えられる構造の確認を行いました。他にも、リゾートホテル内で使用されている周遊バスに関するフレームの強度解析でもCAEを使っています。こうして幅広く実績をつくっていくことで、CAEシステムをどんどん広めていきたいですね」

ひらめきが生んだ、3Dプリンターの新たな活用法

沖縄県のものづくりを支えているのは、CAEだけではありません。昨今広く知れ渡るようになった立体造形ができる3Dプリンターを活用し、沖縄の伝統工芸品である壺屋焼をつくるサポートも工業技術センターで対応しています。こちらは長く壺屋焼のサポートに携わる、主任研究員の冝保さんにお話を伺いました。

デザイン技術に基づいた支援のお仕事をしており、さまざまな知識に造詣が深い冝保さん

冝保さん:「飛行機エンジン内の検査用治具からフィギュアまで、幅広い構造物に精密な対応ができるのが3Dプリンターの強みです。素材にはナイロン粉末を使っていて、強さもある上に柔軟性も高いんですよ。壺屋焼については、主に素地の成形に使用する型を製造しています。もともと、焼物に使用される釉薬(うわぐすり)の仕上がりをテストする陶片(テストピース)を成形するための型を3Dプリンターでつくっていたのですが、あるとき、3Dプリンターでつくった造形物特有のザラッとした質感は、粘土を型から外すときに適しているのでは?ということに気がついたんです。実際に型のサンプルをつくってみたら、これがなかなかいい感じで。製品の成形に活用してみようという話になったんです」

陶器原型のサンプルとして3Dプリンターで造形したお皿も見事な仕上がりに

初めての試みであったため、メンテナンスや運用コストなどの不安もあったそうですが、すでに活用を始めて4年。実際の販売商品に3Dプリンターで製造された型が使用されるなど、着実に成果が上がっています。後編では、実際に商品が販売されている“壺屋やちむん通り”を訪れ、工業技術センターと壺屋焼の関わりや、現場でどう活用されているかをレポートします。