気持ちいい青空が一面に広がった2025年3月12日(水)、石川県羽咋郡志賀町にある仮設住宅地で愛知ネットによるうどんの炊き出しが実施されました。愛知ネットとは愛知県を拠点に、全国各地で災害救援と防災啓発を中心に活動する認定特定非営利活動法人。とくに災害救援においては、実際に現地に赴き、被災者や地域の方のニーズを確認し、求められる支援を継続的に行っています。この日も、地域の声を受けて、一台のキッチンカーとともに志賀町に訪れました。
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入居者の皆さんが笑顔になるきっかけを
今回、炊き出しを行った仮設住宅地は、能登半島地震で被災した富来小学校の一画にあります。もとはグラウンドだった場所に98棟が建てられ、今なお70世帯ほどがご高齢者を中心に入居しています。皆さん普段は家で過ごすことが多いそうですが、穏やかな気候と出汁の香りに誘われて、一人、また一人と入居者の方が集まってきました。
キッチンカーに向かって並ぶ列が長くなるにつれ、会話の弾む声があちらこちらから聞こえてきました。「あんた、来たん」「元気にやっとる?」「久しぶりに顔を見られて、嬉しいわー」と、次々と笑顔があふれていきます。実は、この炊き出しは食事を振る舞うだけでなく、家にこもりがちな入居者が外に出て人と話す、コミュニケーションのきっかけをつくりたいという思いも込められていました。
入居者一人ひとりに声をかけ、うどんを手渡しする炊き出しメンバー
本当の声を聞くためにも、継続的な支援が必要
愛知ネットが能登半島地震発生からどのような対応をしてきたのか、炊き出しメンバーとして参加していた濵口さんと西川さんに話を聞きました。
濵口さん:「2024年1月1日の地震発生時からすぐに被災地の情報を集め、1月6日には現地入りしました。早速、状況を伺うと、食生活で困っているというお話をいただいたんですよね。食事が冷たい……と。真冬だった当時、寒い中での生活となれば気持ちまで暗くなってしまいます。温かい食事で少しでも元気づけたい、そんな思いから炊き出しを始めました」
西川さん:「うどんを振る舞うこともあれば、志賀町文化ホールの調理室をお借りして、豚汁をつくったこともありました。温かい食事にほっとした、おいしかったよ、ありがとうと言っていただけて嬉しかったですね」
笑顔で取材に対応してくれた、愛知ネットの濵口義雄さん(左)と西川加奈さん(右)
濵口さん:「ただ大事なのは、炊き出したら終わりと、支援がその時だけにならないこと。継続的に被災地にいることで、地域の方とそれこそ隣人のような関係を築くことができるので、何が必要なのか、何にお困りなのか、本当の声を聞くことができます。しかし、長期的に活動するには資金が必要になるため、JKAの競輪とオートレースの補助事業に申請しました」
西川さん:「継続的な支援活動ができるようになり、地域の方との距離感を近づけることができました。今回のような炊き出しの場でも、何気ない会話をしながら今の気持ちを聞くことができ、JKAさんには本当に感謝しています」
「お困りごとはないですか?」と話しかける濵口さん
未曾有の状況の中、細やかなサポートに救われた
能登半島地震が起こったのはおよそ1年前のこと。改めて、当時の志賀町はどんな状況だったのか、そんな中で愛知ネットとどんなやりとりがあったのか、震災発生時から避難所となっていた志賀町文化ホールで避難所の運営・管理を担当していた大畑さんにお伺いしました。
大畑さん:「あの日は、これまで体験したことのない未曾有のできごとでした。地割れや屋根瓦の落下、壁や給排水設備などの損傷……甚大な被害状況に誰もが混乱していました。避難所の運営・管理も手探り状態で、厳しい環境の中で避難者からのいろいろな声が私の耳に届きました。とにかく困っていたそんな折、愛知ネットが避難所のサポートに駆けつけて来てくれたんです。
愛知ネットの皆さんは、支援物資の整理や清掃などの環境改善をしてくれたり、被災者の皆さんと一緒に食事をつくってくれたりしました。また、避難者の現状を知るためのヒアリングをお願いしたことも。私たちのような同郷の顔見知りより、言いやすいこともあるんですよね。彼らに聞いてもらったことで、心が軽くなった方もいると思いますよ」
当時の状況をリアルに語ってくださった志賀町教育委員会生涯学習センター次長 大畑喜代志さん
志賀町を盛り上げ、恩返しがしたい
そして、志賀町役場商工観光課の職員であり、志賀町の拠点に活躍する太鼓団体「志賀天友太鼓」のメンバーでもある中野さんも愛知ネットとつながりを持つ一人です。
中野さん:「震災で、自分たちも太鼓を演奏する機会がなくなってしまった。でも、何もしないままではいられない、志賀町を元気づけたい。そこで愛知ネットさんに相談して、炊き出しに協力してもらいました。当日はコーヒーとぜんざいを振る舞い、体験用の太鼓も設置したんですよね。会場に来てくれたご家族や小さなお子さんの笑顔を見ることができて、私の方が逆に元気づけられました。その後、今度は愛知ネットさんからのお声がけで、愛知県安城市で開催された安城七夕まつりに招待いただいて。ステージで太鼓を打ち、すごく盛り上がって、嬉しかったですね。
志賀町の復興の歩みはこれからも続いていきます。町全体がもっと活気づいていけるよう、役場の一人としては志賀町の産業を通してこの町の働き手を増やし、太鼓演者の一人としては演奏を通して志賀町は元気だぞ!と伝えていきたいですね」
志賀町への思いにあふれた言葉を聞かせてくれた中野雄太さん
熱く、力強い太鼓の音を届けた安城七夕まつりでの演奏シーン
支援活動が途切れることのない未来へ
地域と人とつながり、被災地を支える力に変える。支援に向き合うこれからの気持ちを、愛知ネットとしてのこれからの展望を、濵口さんと西川さんに聞かせてもらいました。
西川さん:「私はまだ愛知ネットのメンバーとして経験が浅く、能登半島地震の現場を自分の目で見て、足で歩くうち、つらさを追体験してしまうこともありました。そんな中、炊き出しに行ったある日、温かいカレーを食べたおばあさんが泣きながらありがとうって言ってくださったんですよね。私は気づかされました。被災者の気持ちに寄り添うだけでなく、これからはしっかりと受け止めていくことで向き合っていきたいです」
濵口さん:「愛知ネットは今後も、被災地のことをちゃんと調べて、求められるニーズに応える支援を行うという姿勢を変わらず続けていきます。また、地域の復興を早めたり、支援活動が途切れたりすることのないよう、支援の形を広げていきたい。NPO法人や市民活動団体のように、地域に密着し、災害からの復興を社会課題としている方々のお手伝いなどもしていきたいと考えています」
日本には、震災による被災地支援の課題はたくさんあります。その中で、支援にかける強い意志、目指していきたい未来を語るふたりの眼差しは、能登の空に届きそうなほどまっすぐに向けられていました。