そんな「食」を通じて地域とのつながりを深めているのが、広島県にある一般社団法人 マール村。広島市中区で「たかマールこども食堂」を運営しています。
競輪とオートレースの補助事業先であるこのこども食堂を、生まれも育ちも広島の競輪選手、松浦悠士選手が訪問。どうしてこの街にこども食堂をつくったのか、どんな人たちが利用しているのか、などを探ります。
子どもたちに栄養たっぷりの食事を
鷹野橋駅のすぐ近くにある商店街へ入ると、ぬいぐるみやおもちゃがたくさん置かれたこども食堂が見えてきます。
「初めまして!」と笑顔で迎えてくれたのは、マール村の代表理事を務める太田郁恵さん。
ちょうど開店準備を進めている最中のようです。その様子を見て松浦選手は「僕も何かお手伝いできませんか?」と声をかけます。
太田さん:「ありがとうございます!いつも食材を提供してくれるスーパーへ今から向かうところだったんですが、一緒に運んでもらっていいですか?」
そう言って、二人は株式会社フレスタが運営するスーパーへ。この日はおいしそうなレタスやトマト、みかんなどが用意されていました。食材を台車に積みながら、松浦選手は店長に「どうして食材を提供しているのか?」を聞いてみます。
店長:「フレスタの加工センターでは毎日大量に食材を扱います。中には、規格外のものなど、“まだ食べられるけれど店頭販売が難しい食材”がどうしても出てしまうんですね。それらをマール村へ提供すれば廃棄ロスが減るばかりか、地域にも貢献できる。非常にWin-Winな関係が築けていると感じます」
フレスタの他にも、地域の方や地元企業から「畑で採れ過ぎた野菜を持って来たよ」「うちの会社からも何か提供したい」と、日々多くの食材が集まってくるそうです。また、運営を手伝ってくれるボランティアの方も多く、「運営を続けられるのは地域のみなさんのおかげです」と太田さんは言います。
食事を通じて、栄養の知識も広めていきたい
食材を持ち帰ると、スタッフのみなさんが手早く調理していきます。日によって集まる食材が違うため、メニューはその場で決めることがほとんど。この日は雑穀米、サニーレタスとトマトのサラダ、カボチャサラダ、ニンジンのきんぴら、豚肉と白菜炒め、豆乳汁でした。彩りが良く、栄養もしっかり摂れそうです。
調理の様子を見守りながら、松浦選手は「てんさい糖」が使われていることに注目していました。
松浦選手:「僕もアスリートとして普段から栄養バランスや食材の種類に気をつけているので、砂糖よりてんさい糖を使う機会が多いです。何を食べるかは本当に大事ですよね」
太田さん:「そうですね!調味料を少し工夫すると栄養面も変わるじゃないですか。そういう食事の知識を子どもたちに伝えられるよう、私たちは“たまごとやさしいわに®”という考え方を大切にしています。“たまごとやさしいわに®”は、“た”は卵、“ま”は豆、“ご”は胡麻……という風に、一回の食事でどんな食材を摂ればいいかをわかりやすく伝えるために私たちが生み出した言葉。こども食堂で提供するメニューも、この考え方を基本にしています」
そう言って、マール村で制作した食育絵本を見せてくれる太田さん。普段から栄養などの知識を積極的に学んでいると話す松浦選手は、食育の話にとても興味を示していました。
災害を経験して感じた「みんなで食べる」大切さ
調理を終えてオープンの時間を待つ間、松浦選手は「どうしてこども食堂をやろうと思ったのか?」を太田さんに尋ねます。
太田さん:「きっかけは2018年に発生した西日本豪雨です。当時、私が住む地域も大きな被害を受けました。子どもは学校に行けず、私も出勤できない状態。不自由な生活が長引くほど周囲では言い争いが増え、私の娘も蕁麻疹などの不調を訴えるようになりました。被災した子どもたちのために何かできることはないだろうかとマール村のみんなに相談したところ、“ボランティア活動としてこども食堂をやろう!”となったんです」
大人も子どももストレスを感じていた被災地での暮らし。しかし、こども食堂を通じて温かい食事をするようになると、人々の空気がみるみる変わっていったと、太田さんは当時を振り返ります。
太田さん:「子どもたちは少しずつ笑顔を取り戻していきました。そればかりか、苦手な野菜を食べてくれたり、飲み物を配るのを手伝ってくれたりと、すごくいい変化が見られたんです。栄養のあるものを食べることや、みんなで食事することの大切さを改めて実感しました。その後はしばらく出張こども食堂を続け、2022年に鷹野橋で店舗としての営業を開始しました。塾へ行く前に一人で立ち寄る子がいれば、仕事帰りに親子で利用する方もいます。“ここに来るとホッとする”、“子どもに栄養たっぷりのご飯を食べさせてあげられて嬉しい”などと言ってもらえると、この場所をつくって良かったと思います。シングルマザーや共働き世帯の方はもちろん、一人暮らしの高齢者の方など地域全体の居場所になれば嬉しいですね」
お話を聞いているうちに、外はすっかり夕暮れ時に。こども食堂にも、少しずつお客さんが増えてきました。
松浦選手がお客さんにこども食堂の印象を聞いてみると、「誰にも気にせず子連れでご飯が食べられるので嬉しいです」「ご飯がすごくおいしいです!何度か利用させてもらっています」「近くまで来たので、ついでに寄ろうと思って!」といった声がたくさん返ってきました。こども食堂が、地域にすっかり馴染んでいることが伝わってきます。
夢に向かって走り続ける勇姿が、誰かの活力になる
松浦選手:「いやあ、今日はすごくいい時間を過ごせました。近々、僕の家族を連れて来たいです!そのときは僕からも食材を提供させてください。何がいいかな……レースで優勝したときに副賞でもらうお肉とか?」
太田さん:「わあ、嬉しい!でも、松浦選手のような広島出身のアスリートがお店に来てくれるだけで子どもたちは喜ぶと思います。そういえば、松浦選手もお子さんがいるそうですが子育てはいかがですか?」
太田さんに聞かれ、松浦選手はパパとしての一面を感じるエピソードを教えてくれます。
松浦選手:「レースや練習で不在にする時間は多いですが、なるべく家で晩ご飯を食べたり、一緒にお風呂に入ったりして子どもとの時間をつくっています。最近、街でサインや写真を求められる機会が増えましたが、上の子はどこか誇らしげな表情を見せていますね。一時期は公園で友達に“お父さんは競輪選手なんだ!”と話していたようで、それはやめて……とお願いしました」
太田さん:「そりゃあ、お父さんがプロアスリートだなんてお子さんは自慢でしょう!2023年はKEIRINグランプリという大きなレースでも優勝されたと聞きましたが、これからの目標とかも聞いていいですか?」
松浦選手:「僕の目標はKEIRINグランプリに10年連続で出場すること。そして、すべてのG1レースで優勝してグランドスラムを達成することです。KEIRINグランプリは全国約2300人いる競輪選手のうち9人しか出場できないレース。2023年は初優勝を果たしましたが、これからもっといい成績が出せるよう、体づくりや食事の管理をしっかり続けたいです!」
太田さん:「松浦選手の勇姿を見て食事に気をつけてみようと思ったり、将来の夢を目指す勇気をもらったりする子が大勢いると思います。ぜひ、子どもたちと一緒にレースの応援に行きたいです!」
松浦選手がレースを走ることで生まれた収益の一部が、どんな風に社会に貢献しているのか。本記事を通じて垣間見えたのではないでしょうか。競輪とオートレースの補助事業は、これからもたくさんの人や社会のサポートを続けていきます。
競輪とオートレースの売上の一部を用いて、
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