アスリートといえば健康的な肉体を持ち、病気や身体的な不調とは程遠いイメージがあるかもしれません。しかし実際は多くのアスリートがエネルギー不足による健康課題を抱え、とくに女性アスリートは貧血や疲労骨折、月経不順などの症状が発生しやすいと言われています。
その健康課題を解決すべく研究を行っているのが、早稲田大学スポーツ科学学術院 田口研究室。今回は女性アスリートとエネルギー不足における健康課題の実情や研究の詳細、研究室の今後の展望について、助手の御所園実花さんを中心に伺いました。

※早稲田大学 田口素子研究室について詳しくはこちら

より現場に活かせる研究にするために

「さまざまな補助事業をネットで調べていた中で、女性アスリートというキーワードや、他大学の研究室での実績を見ていくうちに競輪とオートレースの補助事業について知りました。」

そう語るのは、補助事業に応募された御所園実花さん。彼女たちが研究している女性アスリートとエネルギー不足における健康課題は、まだ明確な予防や治療法が確立されていない分野です。しかも研究だけでなく、その結果をスポーツの現場で活用し、アスリートの健康に寄与することを使命としているため、より補助の範囲が広い競輪とオートレースの補助事業を選択されました。

画像: 早稲田大学スポーツ科学学術院 田口研究室 助手 御所園実花さん

早稲田大学スポーツ科学学術院 田口研究室 助手 御所園実花さん

エネルギー不足がもたらす問題は、想像以上に大きい

「“現場に活かせるデータ”を得るには運動時・非運動時を問わず、女性アスリートたちの体で消費・摂取されるエネルギーを計測する必要があります。そうやって計測を繰り返すうちに気づくのですが、多くの方が1日に必要なエネルギーを摂取できていないようですね」

女性アスリートの健康課題の現状について教えてくれたのは、田口研究室の代表 田口素子さん。実は10代・20代の若い選手でも、エネルギー不足が原因で骨密度が低下し疲労骨折を起こしたり、無月経が続いたりするなどのケースは少なくないのだとか。しかも骨密度は一度低下すると元に戻らなかったり、無月経が継続することで将来の健康リスクが発生するなど、引退後の私生活にも影響が出てしまうのです。
アスリートの世界では、たとえば陸上の長距離選手であれば「細ければ細いほどよい」などの科学的に根拠のない風潮が根強く、エネルギー不足の問題が広まらなかったと言われます。しかし、近年ではスポーツ庁が女性アスリートの支援や育成に力を入れたり、田口さんたちのような研究者たちの働きかけによって、少しずつ意識が改善されているそうです。

画像1: エネルギー不足がもたらす問題は、想像以上に大きい

では実際に田口研究室では、どのようなアプローチで研究や調査が行われているのか?という点についてお二人に伺いました。

御所園さん:「エネルギー消費量の計測にはDLW法という方法を採用しています。特殊な水を飲んでもらい、日常生活や練習時を含む一日のエネルギー消費量などを計測するんです。他にも毎日どれだけ食べたか、どれだけ運動したかについても、地道に計測を繰り返しているんですよ。運動時だけでなく、日常的な消費を含めた一日あたりのエネルギー消費量を評価するというのがポイントですね」

画像: 安静時代謝量もしっかり測定を行う

安静時代謝量もしっかり測定を行う

田口さん:「私たちのものと近い研究では、サプリメントや栄養バーを使用して月経異常の改善について研究するというように、範囲が限られています。でも人によっては貧血だったり、骨密度の低下だったり、どういう異常が発生するかは分からない。だからこそ、私たちはそれぞれのアスリートが持っている健康課題に対して、サプリメントなどに頼らず日常的な食事による改善を目指していきたいんです。日々の食事から変えていくことが、長期的に見たときに一番効果がありますからね」

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「研究は世のため人のため選手のため」と繰り返す田口さん。今後は研究成果の発信を積極的に行なっていきたいそうです。

画像: これまでの田口研究室の発信実績

これまでの田口研究室の発信実績

田口さん:「今は外国の研究データが主流ですが、日本人選手を対象にした日本人選手のための知見を世の中に発信していきたいです。選手、指導者、栄養士が見るメディアに論文をまとめたものを掲載すれば、日本人選手のための栄養戦略ができるのかなと思います」

助手の御所園さんは公認スポーツ栄養士として、アスリートの栄養状況に関する実情などを目の当たりにして大学院に戻ってきた経歴の持ち主。どれだけ現場に活用できる研究にするか、まっすぐな思いを聞かせてくれました。

御所園さん:「自分が実際にアスリートを指導していたとき、エビデンスを探してもまだ分かっていないことが多いと感じていました。だからこそ、あらゆる人がしっかり活用できるデータを発信していきたいです。それにエネルギー不足の問題というのは、決して女性アスリートだけの問題ではないので。男性アスリートだったり、次世代の子どもたちにも活かしていければと思います」

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ただ長生きするだけでなく、健康寿命が注目されている現在。正しい運動知識だけでなく正しい栄養知識にもアンテナを張ることは、アスリートだけではなく、私たち一般人にとっても大切なことだと気付かされました。

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