社会福祉法人 光と風が運営する「土居わかたけ」は、就労継続支援B型や生活訓練を行う障害福祉サービス事業所です。就労継続支援B型とは、障がいや病気などの理由によって、企業などへの就労が困難な方々を対象とした福祉サービスのこと。さらに、日常生活に必要な能力の維持・向上のための生活訓練を通じて利用者のみなさんが自立して生活できるよう目指しています。
そうした福祉サービスの一環として行われているのが、キッチンカーでのお弁当販売。「自分たちがレースを走ることで生まれた売上の一部が、どのように活用されているか知りたい」と、オートレーサーの黒川京介選手がこちらを訪ねました。
おいしいお弁当を携えて、地域を走るキッチンカー
黒川選手を迎えてくれたのは土居わかたけ管理者の髙橋昌代さん。
髙橋さん:「遠いところからはるばるありがとうございます!今日はキッチンカーを見に来てくれたんですよね。ぜひ自由にいろいろ見てください」
この日はちょうどキッチンカーの営業日。土居わかたけの利用者さんが、近隣の医療福祉
専門学校へお弁当を販売しに行く準備を進めています。今日のメニューは学生に大人気のロコモコ丼。
黒川選手:「せっかくなので、キッチンカーの中や施設の様子も見学していいですか?」
そう言ってキッチンカーの中へ入る黒川選手。車内には、調理場や水道設備などもしっかり完備されています。
実は、障害福祉サービス事業所がキッチンカーで販売を行うのはかなり珍しいそう。「どうしてキッチンカーを始めようと思ったんですか?」と、黒川選手も気になる様子です。
髙橋さん:「キッチンカーを導入した背景には、利用者さんの工賃、いわゆる報酬を上げたいという想いがありました。普段私たちは、地元企業から委託された作業を利用者さんに依頼して工賃をお支払いしています。今日は事業所内で折り紙の封入作業をしてもらっているんですよ。でも、内職的な作業だけでは工賃を上げるにも限界があります。そこで、最初は地元の食材を使った焼き肉のタレをオリジナルで作って販売してみたんです。そこから“このタレを使ったお弁当を販売しよう!”と、キッチンカーのアイデアに辿り着きました」
お話を聞きながら、黒川選手は深くうなずきます。
調理場、注文、レジ、どれもテキパキとこなして
「良かったら販売している現場も見せてもらえませんか?」と提案する黒川選手。利用者さんと同じエプロンを身につけて学校へと向かいます。
到着すると、土居わかたけのスタッフさん2名と利用者さん2名の計4人で手分けして「ご飯を詰める」「注文を聞く」「お釣りを渡す」などの作業を慣れた様子で進めていきます。
次から次へとお客さまが来て、お弁当はあっという間に完売。お弁当を注文した先生からは「土居わかたけは、生徒の実習先としていつもお世話になっています。利用者のみなさんがキッチンカーでの販売を始めると聞いて、ぜひうちにも来てくださいとお願いしました。とてもおいしくて、みんなキッチンカーが来る日を楽しみにしています」という声を聞くことができました。
売上がそのまますべて工賃になるわけではないですが、髙橋さんは「利用者さんがキッチンカーで活躍してくれるおかげで、工賃はもちろん、あらゆる面でいい効果が生まれています」と言います。
髙橋さん:「キッチンカーでの販売を始めて、地域での認知度が上がったと感じます。近所の方に“今度はどこで販売するの?”と声をかけてもらう機会も増えました。それに、利用者さんの表情も明るくなったんですよ!販売に行く日はとても楽しそうにしています。私たちの力だけではキッチンカーは導入できなかったので、補助事業には本当に助けられました」
「楽しい」の笑顔を、もっと知ってもらうために
再び事業所へ戻り、改めて利用者さんや他のスタッフさんにもお話を聞きました。
日野さん:「キッチンカーで販売する日は外に出かけられるし、調理をいろいろできるので楽しいです。野菜を茹でたり食器を洗ったりする作業は、日常生活でも活かせます。キッチンカーはいろんな経験ができるからとてもいいですね」
伊達さん:「お客さまが来たら挨拶をして、お金を受け取ったらお釣りを渡して……3個とか5個買う人もいるので、お金の計算を間違えないように電卓を使って作業していますが、どれも楽しいです。緊張はしますけどね」
黒川選手:「調理やお金を扱う作業はとても難しいと思いますが、どれも楽しいと言えるのが素敵ですね。僕は今まで障がいがある方と関わる機会がほとんどなく、障がいに対してぼんやりとした印象しかありませんでした。でも今日、みなさんと接して感じたのは“すごいな”ということ。大量のお弁当を素早く運んでいましたし、販売もテキパキとこなしていましたよね。学校の生徒さんとも普通にコミュニケーションを取っていたし、何なら僕、あんなにうまく作業できないです」
その言葉を聞き、一緒に販売していたスタッフさんも嬉しそうです。
スタッフ渋口さん&河村さん:「キッチンカーの販売は、利用者さんにとっても私たちにとっても初の試み。最初は商品の受け渡しやお釣りのやり取りも不慣れで、お客さまにぶつかりそうな距離感で接客したりもしました。手探りで何とかここまで来ましたが、そんな風に言ってもらえて良かったです」
髙橋さん:「私たちは“障がいを正しく理解してもらいたい”と思って活動しています。障がいがある方と接する経験が少ないと、中には“怖い”や“変”と感じる人もいるみたいです。でも、目の前の人にどんな障がいがあるのか、どんな人なのかがわかればそんなに構えることもなくなると思います。黒川選手が感じてくれたことを、もっといろんな方にも知ってもらいたいですね」
髙橋さんの言葉を受けて「怖いとか、変とか、そういう風にはまったく思わなかったです!むしろみなさんしっかり社会に馴染んでいるように見えました」と返す黒川選手。
誰かのサポートのおかげで、叶えられる夢がある
髙橋さん:「オートレースの選手が来ると聞いて、利用者のみなさんワクワクしていたんですよ。黒川選手は8歳の頃にはオートレーサーを目指していたそうですが、小さい頃の夢を叶えるなんてすごいです」
黒川選手:「ありがとうございます。でも、叶えられたのは周りのサポートがあったからですよ。子どもだった僕にいろいろな人がアドバイスをくれたり環境を用意してくれたりしたから、今の自分があります。一人じゃ絶対に叶えられなかったです」
髙橋さん:「利用者さんはそれぞれ夢を持っています。自動車を運転したい、会社で働きたい、一人暮らしがしたい、人と良い関係を築きたい……キッチンカーを導入して“もっと調理がうまくなりたい”という目標ができた人もいます。その夢を叶えるための環境を用意するのが、私たちスタッフの役目だと改めて気づかされました。今日は来てくれて本当にありがとうございます。利用者のみなさんも黒川選手に会えて元気をもらえました!」
黒川選手:「こちらこそ!競輪とオートレースの補助事業がみなさんのお役に立っていると知ることができて良かったです」
最後は、利用者のみなさんが一堂に会して黒川選手へ「ありがとうございました!頑張ってください!」とエールを送ってくれました。
キッチンカー以外にも、さまざまな福祉サービスを提供する社会福祉法人 光と風。地域のため、障害のある方々のためにできることを模索し続けるみなさんと共に、キッチンカーは今日も四国中央のどこかで活動しています。
競輪とオートレースの売上の一部を用いて、
ものづくり、スポーツ、地域振興等社会に役立つ活動を応援しています。
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