2024年12月13日(金)〜15日(日)の3日間にわたって、国立京都国際会館にて「小児がんの子どもたちの絵画展」が開催されました。子どもたちが描いた絵画1枚1枚を通じて、小児がんに対する正しい知識と理解が少しでも社会に広まって欲しいという願いが込められています。会場には、全36作品が展示され、そのすべてに子どもたちにとってかけがえのない瞬間や想いが描かれていました。
大切なのは、小児がんの現状を知ること
会場となった国立京都国際会館は豊かな緑に囲まれ、ゆったりとした空気が流れていました。会場内の壁には色とりどりの絵画が飾られ、これらは小児がんと闘う子どもたちが描いたもの。小児がんは、子どもに発症する白血病、脳腫瘍、骨肉腫などのがんの総称で、年間約2,000〜2,500人が小児がんと診断されているといわれます。多くの方がその名前は知っていても、中身を理解されている方が少ないのが現状です。小児がんの現状について、大阪母子医療センター血液・腫瘍科主任部長の澤田先生にお話を伺いました。
澤田先生:「小児がんはいわゆる、子ども特有のがんです。総称のため種類はさまざまにありますが、その一つが急性リンパ性白血病です。白血病は大人になると10%程度の発症という数字になりますが、子どもに特に多いがんとされています。
しかし現在は、医療技術の進歩によって、70〜80%ほどの子どもたちが治療を終えることができるようになっています。ただ、この現状もあまり知られていないため、小児がんと診断されたときのご家族の受け止め方にもつながっています。ときには、子どもたちやご家族が社会から偏見を受けることもあると聞きますね。
だからこそ、小児がんの子どもたちの絵画展のように、絵画を通してどんな病気なのかやその背景を知ることはとても大事な機会だと思います」
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「小児がんを理解することが安心につながることもある」と澤田先生
大好きな家族の顔や夏の思い出、空想の世界を絵に
絵画は36作品が一堂に展示され、色鮮やかな水彩画や文字でつづった作品もありました。それぞれに描いた当時のエピソードやご家族からのメッセージが添えられ、かけがえのない想いが心にまで伝わってくるほどでした。
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「ピアノとぼく」倉本知眞さん
晴れた日の空の下で、笑顔いっぱいピアノを楽しんでいるシーンを表現。色鉛筆を使って、とてもカラフルに描かれていました。この絵を描いた倉本知眞さん は1歳で脳腫瘍になり、放射線治療後から今なお投薬治療や通院を行っていますが、ピアノだけは毎日続けてきたとのことでした。
現在は音楽大学のピアノ科に通い、いつか自分のピアノを誰かに聴いてもらって、音楽の力で役に立ちたいと頑張って練習しています。
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「いつでもいっしょだよ♪」井田裕太さん
スタンプのように自分の手と指を押して、酉年にちなんでにわとりとひよこを表現。小さな手が愛らしく、一生懸命作ったけなげな姿が思われます。当時2歳だった井田裕太さんは、絵の具を塗って手形を取って遊ぶのが本当に楽しくて、手を洗うのを嫌がったそうです。
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「上空写真」有國遊雲さん
この絵を描いたのは、14歳のとき。細やかなタッチで描いたのは、雄大な山々に何艘もの船が浮かぶ港、にぎやかな町並み。この町にモデルはなく、紙の上に欲しい建物を詰め込んだらこんな町になったのだそう。
さまざまな施設が隠れているので、何があるのか探してみてというメッセージも添えてくれていました。
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「我が澤(たく)は春の如し」保刈秋乃さん
1年間に及ぶ筋肉種の治療を終え、10年後の高校1年生のときに書いた一筆。力強さの中に繊細さが見え隠れし、存在感にあふれていました。
今、保刈秋乃さんは書道部に所属し、仲間たちと息を合わせて作品を作り上げる書道パフォーマンスに取り組んでいます。「澤」という字には豊か・潤うという意味があり、ご家族も娘の日々が豊かで春のように穏やかであることを願われています。
来場者の心に刻まれたメッセージ
取材している間にも会場には次々と来場者が訪れ、一つひとつの絵画を大事そうに見つめていく姿がとても印象的でした。また、会場の一角にはチャリティーグッズも。トートバッグや小児がんの子どもたちにエールを送るゴールドリボンのピンバッチが並べられ、受付の方にお話を伺ってみると、「我が澤(たく)は春の如し」を書いた保刈秋乃さん のお母さん(写真左)でした。保育園のときに病気にかかり、小さな体で小児がんと戦い、こんなに立派な書を書けるまでに成長してくれたと、うれしそうに語ってくれました。
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ボランティアとして絵画展をサポート
来場者の方には鑑賞後の感想をもらい、たくさんの声がそこにはありました。
「子どもたちの絵を通して、日常の大切さや未来への想いを感じる機会をいただきました」、「絵画から伝わってくる子どもたちのパワーに圧倒されました」、「小児がんの患児が思っていたことを知る、良い機会になりました」、「子どもたちの絵を観ることによって、命の大切さを感じて欲しいと思います」など数々の感想が残され、絵画展を通して伝えたいメッセージが届いているように感じられました。
会いに来るご家族のために
絵画展を企画・開催した、公益財団法人がんの子どもを守る会の恩田さんにもお話を伺いました。
恩田さん:「この絵画展は子どもたちの息づかいが感じられるよう、原画で飾ることを大事にしています。だからこそ、お借りした絵をきちんとした形でご家族にお返しするまでが私たちの使命です。管理には費用もかかるため、競輪とオートレースの補助事業で支えていただくことで、今回も無事に開催することができました。
私自身これまでに何度も絵画展に携わっていますが、会場にお越しになるご家族の方はみなさんお子さんに会いに来る気持ちでいらっしゃいます。遠方にお住まいの方は、一緒に旅行をしている気分になれる、と話される方も多いですね。
今後は小児がんの啓発はもちろん、子どもたちが治療する中で少しでも過ごしやすい環境づくりや社会の理解も促していく必要があります。さらに、小児がんにただただ不安にならないよう、誤った理解から傷つけることのないよう、命の大切さを考え、正しい情報を理解するためのフィールドも広げていきたいですね」
公益財団法人がんの子どもを守る会について詳しくはこちら
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「毎年お子さまに会いに来られるよう絵画展を続けていきたい」と恩田さん
子どもたちの想いのすべてが込められた、絵画の数々。どれもが輝きに満ちていて、絵画を前に、一人でも多くの理解を願って止まないひとときとなりました。
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