名古屋市を中心に活動する名古屋市文化振興事業団(以下、事業団)は、地域の芸術家の支援や、市民が文化芸術活動に参加する機会を提供しています。2025年2月14日(金)〜16日(日)の3日にわたって開催されたミュージカル『オズの魔法使い』は、まさに名古屋市民や、名古屋市にゆかりのある人々が中心となってつくり上げられた舞台演劇です。今回は本公演のレポートや関係者へのインタビューを通じて、文化を市民自らの手でつくり上げることへの思いを伺いました。

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文化の火を灯し続けるために、大切なこと

『オズの魔法使い』は、心の絆や多様性の大切さを描いた名作児童文学です。これまでにも多くの劇団がミュージカルの題材に選んでいますが、事業団が企画した本公演の特徴は、地元名古屋で活動する出演者やスタッフが多く関わっていること。そのこだわりについて、事業団の制作担当を務める井上さんがお話してくれました。

井上さん:「今回は出演者やスタッフだけでなく、オーケストラも地元で活動の場を求める若手演奏家にお声がけして編成しました。舞台芸術などの文化を途切れさせないためには、次の世代の方々が活躍する場を提供することが大切です」

次の世代はもちろん、多くの芸術家に活躍の機会を提供することは、社会貢献にもつながっています。そこで、過去の制作担当者が競輪とオートレースの補助事業の意義に沿うのではないかと考え、2016年から応募を始めたそうです。

井上さん:「JKAさんからは単なる支援だけではなく、私たちの取り組みのどこを改善すればもっと芸術家の方々の支援につながるか、こちらが気づけていない視点からいろいろとアドバイスをいただけるので刺激になっています」

画像: 地域の芸術家や市民の表現活動について真剣に語る井上さん

地域の芸術家や市民の表現活動について真剣に語る井上さん

文化とは人を楽しませ、感動させるもの

公演の中日、2月15日(土)の第2部(16:30〜)は、若者や家族連れ、高齢のご夫婦など、幅広い世代の観客が客席を埋め尽くしていました。期待が高まる中、ダンサーたちが観客を物語の世界に引き込んでいくような演出で、舞台の幕が上がります。この日の主演を務めるのは近藤真伎さん。オーディションに合格した、名古屋市の現役大学生です。主人公のドロシーを演じる姿は、学生であることを感じさせない、非常に堂々としたものでした。また、彼女が迷い込む不思議な「オズ」の世界では、木や花まで人が演じたり、ブロックや布で家や道が表現されていたり……イマジネーションが膨らむような演出が印象的でした。
後半が始まると、なんと客席の後ろからドロシーやメインキャストが登場!舞台だけでなく、会場全体を活かした演出に、観客から驚きの声が上がりました。徐々にシリアスさが増す展開に、キャストの歌や踊り、オーケストラの緊迫感も増していきます。そして、ドロシーが元の世界へ戻ることになり、物語は感動のフィナーレへ——。万雷の拍手が鳴り響いた後の会場は、まるで観客も「オズ」の世界から帰ってきたように不思議な、そして幸せな余韻に包まれていました。

画像: カーテンコールの際も惜しみない拍手が送られた

カーテンコールの際も惜しみない拍手が送られた

その後、終演の興奮冷めやらない中、主演の近藤真伎さんにお話を伺いました。

近藤さん:「まずは、事故や怪我なく中日の舞台を終えることができてホッとしています。主役を演じることが初めてで、悩むことも多かったのですが、作中のセリフに“みんなで一緒に”とあるように、関わった皆さん全員と支えあってここまで来られました」

舞台の上と同じように、はっきりと自分の思いを伝えてくれた近藤さん。そんな彼女は、事業団の公演を観たことがきっかけとなり、舞台に憧れるようになったそうです。

近藤さん:「自分の中で文化は人を楽しませたり、感動させるものだと思っています。だから今回、観ていた側から伝える側になれたのがとても嬉しくて。これからも自分がもらったような夢を届けたり、文化に触れるきっかけになれるように頑張っていきたいです!」

画像: 夢を届ける存在になりたいと、高い志を話してくれた近藤さん

夢を届ける存在になりたいと、高い志を話してくれた近藤さん

コンセプトは“人と人でつくる”

本公演の演出を担当した横山清崇さんにも、終演後にお話を聞くことができました。

横山さん:「企画が始まってから、日々自分が一番幸せだなと感じながら過ごしています。というのも、僕の中にぼんやりとあったアイデアを、スタッフさんやキャストさん含めチーム全体で意見を交わしながら形にしていただいて。イメージがどこまで伝わるかなという不安はあったのですが、本当に皆さん積極的にアイデアを出してくれたんです」

密にコミュニケーションを取りながら、チーム全体で共創されていった『オズの魔法使い』の世界。横山さんがなぜそういう方法を取られたのか。そこには、一つの大きなコンセプトがあったそうです。

横山さん:「昨今、映像技術の進歩も凄まじいのですが……今回は、映像に頼ることはやめようと。“人と人でつくる”ことを、演出の核にしようと思ったんです。『オズの魔法使い』という作品の裏に描かれているのは、“足りないものは他の人が持っている”ということ。ドロシーを含めてメインの登場人物たちは、互いに足りないものを補い合いながら旅を進めていきます。まさに今回の公演も同様で、出演者のキャリアも横一線じゃないし、歌や踊りも全員が同じレベルではない。そういう状況でみんなが助け合って、一緒に舞台をつくっていく。その部分は物語から舞台制作まで、一気通貫できたかなと思います」

最後に、名古屋という土地との関わりや思いを聞かせていただきました。

横山さん:「実は僕、社会人としてのキャリアをスタートしたのが名古屋だったんです。だから、すごくシンパシーを感じる土地なんですよ。演劇に関しては、反応は物静かではありつつも、熱量がすごく高いお客様が多い印象です。今回の公演でも、観る側の情熱を感じました。『オズの魔法使い』に限らず、市民の手による舞台公演はぜひ継続してほしいですね。子どもたちが舞台に憧れの眼差しを向けているのを見ると、この事業の意義は大きいなと感じるんです」

画像: 横山さんは“とにかく皆でつくり上げた舞台”ということを強調されていた

横山さんは“とにかく皆でつくり上げた舞台”ということを強調されていた

過去から受け継ぐ縁が、名古屋の文化の未来になる

近藤さんや横山さんの公演に対する思いを受け、最後に改めて、事業団の井上さんに今後に対する思いを伺いました。

井上さん:「今回は過去に公演をご覧になっていた近藤さんだけでなく、2008年公演の『オズの魔法使い』に出演した山﨑未友季さんが振付で参加されています。他にも歌唱指導を担当した春日井こずえさんも、過去に事業団の公演に出演いただきました。これまでのさまざまなご縁や、競輪やオートレースの補助事業などの支えが、今回の公演をつくっているんです。これからもそうやって文化をつないでいけるように活躍の場を提供するだけでなく、人を育てていくという観点でも頑張っていきたいです」

今日の公演を見た多くの子どもたちの中に、未来の舞台に立つ人や、それを支える人がいるのかもしれない。名古屋市の文化の火は灯り続けていくだろうと、強く感じた夜になりました。

画像: 過去から受け継ぐ縁が、名古屋の文化の未来になる

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