元々、機械の摩擦や摩耗を抑制するトライボロジーの研究を進めていた崔教授。そこから「摩擦を抑制するだけでなく、摩擦を使ってエネルギーをつくることができないか」と、自転車を漕いだ際に生じる摩擦を活用した発電装置の研究を開始。競輪とオートレースの補助事業では、この取り組みを支援しています。
自転車は競輪選手にとって欠かせない存在。さらに崔教授は、研究に「自転車競技者用のローラー練習台」を使用しています。そのことに興味を持った競輪選手の中村浩士選手と、その弟子の原田亮太選手が研究室を訪問しました。
停電時でも電気がつくれる、自転車を活用した発電装置
「今日ははるばる来ていただきありがとうございます!」そう言って中村選手と原田選手を迎えてくれた崔教授。早速、キャンパス内の研究スペースへと案内してくれます。
中村選手:「こちらこそよろしくお願いします。僕と原田君は理系の学校出身なので、研究室が並ぶキャンパスの雰囲気だけでもうワクワクしてきます!」
崔教授が見せてくれたのは、ローラーに競技用自転車が組み込まれた専用装置。研究用に前輪を外してはいるものの、それを見て選手二人は「養成所にあるローラー練習台とほぼ同じだ」と驚いていました。
崔教授:「そうです。競輪選手が使っているものと同じ自転車ですね。これにローラーや発電機を組み合わせ、自転車とローラーの間で発生した摩擦や機械エネルギーを電気エネルギーに変換する装置をつくっています」
「自転車を漕いで前輪部分にあるライトを点灯させる」「下敷きで頭を擦って静電気を起こし、髪の毛を逆立てる」そんな経験を持つ人は多いのではないでしょうか。それと同じで、自転車を漕ぐことで生まれる機械エネルギーやタイヤーとローラー間の摩擦による接触帯電象は、電力としての活用が可能です。崔教授はその原理を応用した発電装置を開発しています。
中村選手:「面白いですね!発電した電気はどのような用途で使用できるんですか?」
崔教授:「さまざまなシーンで活用できますが、今考えているのは自然災害が発生したときです。日本では、地震や台風などによる停電が毎年のように発生していますよね。この装置を使って発電や蓄電ができれば、停電時や災害時の非常用電力として活用可能だと考えています」
自転車のパワーが、被災地の暮らしを救う未来
実際に自転車に乗ってペダルを漕いでみたところ「乗り心地は普段とまったく変わらないですね」と、原田選手。崔教授によれば、競輪選手が2〜3時間自転車を漕げば、パソコンやスマートフォンの充電に十分な電力がつくれるそうです。
崔教授:「競輪の養成所では、競技用自転車のローラー台が何十台と並んでいますよね。稼働が一台だと発電量も限られますが、何十台もの自転車を並列でつないだ発電装置が実現すれば、消費電力の大きい電子レンジや冷蔵庫、エアコンといった家電が使用できるレベルの発電・蓄電が可能です」
もし、災害による停電が長期間続いたとしても、自転車を漕いで電気をつくれれば……きっと、被災地の方にとって大きな希望となるはずです。
原田選手:「災害時に活用できるのはとても良いですね。競輪選手は全国にいますから、どの地域で災害が起きても、被災地のみなさんへ電力を届けられるはず。実現すれば、本当に素晴らしいと思います」
発電装置の仕組みを、日々のトレーニングにも
原田選手:「自転車を使った発電装置があると聞いて、もっと大がかりな装置を想像していました。でも実際に見てみると、自分がいつも乗っているローラー練習台とほぼ同じ。このサイズ感で、家電が使用できるほどの電力がつくれることに驚きました。僕たちは普段から当たり前に自転車を漕いでいますが、あのパワーを電力に変えられたら相当なエネルギー量になりそうです」
中村選手:「僕たちは筋肉を鍛えるため、練習時はあえて負荷をかけて自転車を漕いだりします。ジムなどにあるフィットネスバイクでも、体力を付けるためにペダルを重くしたりしますよね。あれは結局、負荷をかけるためにわざわざ電力を消費しているんです。おまけに今は、漕いだときに発生しているエネルギーをまったく活用できてない状態。崔教授の研究を見て非常にもったいないと感じました。早くこの装置を使えるようになりたいですね」
崔教授の研究を見て、改めて感想を伝える中村選手と原田選手。さらに中村選手は、崔教授に自分なりのアイデアを伝えます。
中村選手:「今日見せてもらった装置では、発電したエネルギー量が数字で表示されていましたよね。あの機能を応用して、“どの程度の力でハンドルを握っているか”や“サドルやペダルにどれだけ重心をかけているか”を数値として表示することは可能ですか?」
そのアイデアに対して圧力センサーを設置すれば実現できると思います。早速、試してみましょう」と答える崔教授。しかし、どうして中村選手は数値化にこだわるのでしょうか。
中村選手:「自分の感覚を弟子たちへ伝えるのに、最もわかりやすいのが数字なんです。指導をする際、“もうちょっとハンドルに力を乗せてごらん”と言っても、もうちょっとがどの程度か正確には伝わっていないはず。その力加減を数字で正しく示せれば、日々の指導がより効率良くなると思うんです」
弟子の成長のため、より良い指導方法を模索する中村選手。そんな彼といつも接している原田選手は、中村選手をどんな師匠だと感じているのでしょうか。
原田選手:「非常に素晴らしい師匠です。競輪に関することだけでなく、人として生きていく上で大切なことをたくさん教えてくれる方ですね。中村選手に教わるようになって、人間的にも大きく成長できたと感じます」
その言葉からは、二人の師弟関係が非常に深い信頼で結ばれていることがうかがえました。
自転車の力と研究の力で、さらなる社会貢献を
崔教授:「本研究を通じて自転車競技の選手と関わる機会も増えましたが、みなさんとても誠実で真面目だと感じます。私の研究によって災害時などによる停電の課題が軽減できるのはもちろん、中村選手が提案してくれたようなアイデアも積極的に取り入れ、選手達の力にもなれば嬉しいですね」
中村選手:「僕たちが自転車を漕ぐ理由は、強くなるため。自分のために頑張っていることが、研究や社会の役に立つことにつながっていると思うと、気持ちが前向きになります。崔教授や学生のみなさんが研究に取り組む様子を見て、俄然やる気が湧きました!」
原田選手:「競輪とオートレースの補助事業は、研究の他にも福祉や医療の現場、企業や学校など、いろんなことやものを支援していますよね。街を歩いていて“え!?これも補助しているのか!”と驚いた経験は、一度や二度ではありません。さまざまな場所で活用されているのを見ると、僕も誇らしいです」
崔教授の研究が進めば、社会にとってより良い変化が生まれるはずです。最後は三人揃って「これからも応援しています!」と、それぞれの活躍にエールを送り合いました。
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